【処方箋 No.038】「幸せなはずなのに虚しい」あなたへ。それは「振り子」が止まった合図です
欲望が満たされた後に来るのは、幸福ではなく「退屈」です。
【患者の訴え】
先生、贅沢な悩みだとは分かっています。仕事も順調で、家族もいて、お金にも困っていません。昔の自分が夢見ていた生活を手に入れたはずなんです。 でも、ちっとも幸せじゃない。むしろ、強烈な退屈と虚しさに襲われています。「これが私の人生のゴールなのか?」と思うと、あと何十年もこの「平穏な絶望」が続くのが怖いです。何かトラブルがあった時の方が、まだ生きている実感が強かった気さえします。
【診断】
あなたの症状は、ショーペンハウアー哲学における「振り子の『退屈』側への到達」です。 先生は言いました。「人生は、苦しみと退屈の間を揺れ動く振り子のようなものだ」。 私たちは何かが欲しい時、それが手に入らない「欠乏(苦しみ)」を感じます。必死に努力して、それを手に入れます。しかし、欲望が満たされた瞬間、幸福が永続するわけではありません。次に待っているのは、強烈な「退屈」です。 あなたが満たされないのは、戦うべき敵(欠乏)がいなくなり、あなたの生命エネルギー(盲目的な生存意志)が行き場を失って、自分自身を攻撃し始めているからです。これは、サバイバルに勝利した者だけがかかる「魂の贅沢病」なのです。
【処方箋】
ショーペンハウアー先生は、あなたに「利害を離れた『観照』」を処方します。
理論の解説: これを「RPGゲーム」に例えてみましょう。 強い敵と戦ってレベル上げをしている時(苦しみ)は、夢中になれます。しかし、ラスボスを倒して最強装備を手に入れた後(成功)、急にやることがなくなります。町をうろつくだけの時間は、戦闘中よりも虚しいものです。 今のあなたは、ゲームクリア後の世界にいます。ここで「もっと強い敵(新しい刺激や欲望)」を探しても、また同じサイクルの繰り返しです。 必要なのは、ゲームの「攻略(生存競争)」をやめて、ゲームの背景や音楽の美しさをただ味わう「鑑賞モード」に入ることです。
アクションプラン:
退屈を「勝利の証」として受け入れる 「何かが足りない」のではありません。「もう何も足す必要がない」のです。その虚しさは、あなたが人生の生存競争に完全勝利したという証明書です。まずは「ああ、私は上がり切ったのだ」と、その平和を噛み締めてください。
「役に立たない」活動に没頭する 損得や成果(生存意志)に関わる活動は、あなたをまた振り子に戻します。ショーペンハウアーは特に「芸術」を推奨しました。役に立たない古典文学を読む、絵を描く、楽器を弾く。自分の利益にならない純粋な活動だけが、退屈という猛獣を手懐けることができます。
「共苦(きょうく)」を知る 自分の幸福に飽きたなら、視線を他者に向けなさい。世界のどこかにいる、まだ「苦しみ」の側にいる人々に思いを馳せ、慈悲の心を持つこと。利己心を捨てて他者と痛みを分かち合う時、個人の虚しいエゴ(自我)の境界線が消え、より大きな充足感に包まれます。
【用法・用量】
この考え方を取り入れると、「もっともっと」という渇望から抜け出し、静かで高貴な精神的満足を得られるようになります。
ただし、ショーペンハウアー先生はかなり極端な悲観主義者なので、「生まれてこない方がよかった」とまで考え込むと危険です。適度に美味しいものを食べて、彼の芸術論(救い)の部分だけを服用してください。
満たされないのは、あなたが動物的な満足を超えて、人間としての精神的な満足を求め始めた証拠です。
お大事に。
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