【処方箋 No.001】AIに仕事を奪われる恐怖
AIにはできない「活動」にシフトし、人間ならではの価値を取り戻そう。
担当医:Dr. ハンナ・アーレント
(20世紀ドイツ出身の政治哲学者)
【患者の訴え】
「ChatGPTや生成AIの進化が早すぎて怖いです。今まで自分が何時間もかけてやっていた資料作成やデータ分析が、AIなら一瞬で終わってしまう。 このままだと、自分の仕事は全部AIに奪われて、社会から『お前はもう用済みだ』と言われるんじゃないか……そんな漠然とした不安で夜も眠れません」
【診断】
その症状は、「ホモ・ファーベル(工作人)の自信喪失」および「アニマル・ラボランス(労働する動物)への埋没」と診断されます。
少し難しい言葉が出ましたが、簡単に言うと「人間の価値=『何かを効率よく生産すること』だと思い込みすぎている状態」です。
あなたは、「人間」と「高性能なロボット」を同じ土俵で戦わせてしまっています。「計算の速さ」や「作業の正確さ」で自分の価値を測ろうとすれば、どうあがいてもAIには勝てません。それは、人間が素手でブルドーザーと力比べをするようなものです。負けて落ち込むのは当然の帰結です。
【処方箋】
この不安を解消するために、ハンナ・アーレントという哲学者の『人間の条件』という理論を処方しましょう。
アーレント先生は、人間の営みを以下の3つのレベルに分けました。ここがテストに出るくらい重要ですよ。
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労働(Labor): 生きるために必要なこと。家事や、食べるための糧を得るルーチンワーク。 (例:毎日の皿洗いや、マニュアル通りの事務作業)
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仕事(Work): 世界に形として残るものを作ること。 (例:家を建てる、システムを開発する、芸術作品を作る)
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活動(Action): 人と関わり、言葉を交わし、新しい何かを始めること。 (例:会議で意見をまとめて方向性を決める、悩んでいる部下を励ます、新しい企画を立ち上げる)
<あなたの不安の正体>
あなたが「AIに奪われる」と恐れているのは、主に「1. 労働」と「2. 仕事」の一部です。 AIは「処理(Labor)」や「生成(Work)」は得意ですが、「3. 活動(Action)」はできません。
なぜなら、「活動」とは「予測不能な他者」と関わることだからです。 例えば、場の空気を読んでユーモアで緊張をほぐしたり、誰も正解を知らない問題に対して「よし、こっちの方向に進んでみよう!」と責任を持って決断したりすること。これは、過去のデータから最適解を出すAIには不可能です。
<現代での活かし方>
これからの時代、あなたは「アニマル・ラボランス(労働する動物)」であることをやめ、「活動する人」にシフトしてください。
- Before:「どうすればAIより速く資料を作れるか?」(労働の競争)
- After:「AIに資料を作らせている間に、私は誰と交渉して、どんな新しいプロジェクトを始めようか?」(活動へのシフト)
AIは「最強の部下(労働の代行者)」です。部下が優秀なら、あなたは上司として「何をするか(目的)」を決め、「人間関係」を調整することに専念すればいいのです。 「奪われる」のではなく、「面倒なことを押し付けて、自分はもっと人間らしいことをする」と考えてください。
【用法・用量】
この思考法は特効薬ですが、以下の点に注意して服用してください。
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「労働」を完全にバカにしないこと: いくら「活動」が大事でも、日々の地道な業務(労働)をおろそかにすると、信頼を失います。AIを使いこなしつつ、足元の業務も大切にしてください。
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副作用の注意: 「活動(Action)」は人間関係そのものですから、ストレスもかかりますし、正解もありません。しかし、「AIにはできない苦労を私が引き受けてやっているんだ」という誇りを持つことが、心の安定につながります。
お大事に。AIはあなたの「敵」ではなく、あなたが人間らしく生きるための「踏み台」ですよ。
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