【処方箋 No.047】「捨てられない」のは、物があなたを支える「松葉杖」になっているから
「持っているもの」が減っても、「あなた自身」は1グラムも減りません。
【患者の訴え】
先生、部屋をスッキリさせたいんです。ミニマリストのような丁寧な暮らしに憧れて、ゴミ袋を片手に断捨離を始めるんですが、すぐに手が止まってしまいます。 「これは高かったからもったいない」「いつか使うかもしれない」「これを捨てたら思い出まで消えそう」……。そんな言い訳ばかり浮かんで、結局何も捨てられません。物に囲まれていないと不安で、自分の部屋なのに圧迫感を感じて息苦しいんです。
【診断】
あなたの症状は、哲学的には「持つ様式(Having)」への過度な依存です。 フロム博士は、人間の生き方を二つに分けました。
持つ様式(Having):「私は持っている」に価値を置く生き方。自分=所有物(家、車、服、知識)だと考える。
ある様式(Being):「私はある」に価値を置く生き方。自分の体験や行為そのものを楽しむ。
あなたが物を捨てられないのは、あなたが強欲だからではありません。無意識のうちに「私=私の持っている物」という等式が成立してしまっているからです。 だから、物を捨てる行為が、まるで自分の体の一部を切り落とすかのように痛く、自分の価値が減ってしまうような恐怖を感じるのです。あなたは物に「執着」しているのではなく、物に「依存」して自分の輪郭を保っている状態なのです。
【処方箋】
フロム博士は、あなたに「松葉杖を外して歩くリハビリ」を処方します。
理論の解説: これを「松葉杖」に例えてみましょう。 健康な足(自分自身の中身)が弱っている人は、立つために沢山の松葉杖(ブランド品、コレクション、大量のストック)を必要とします。周りに松葉杖がないと倒れてしまう気がするからです。 しかし、本当のミニマリズムとは、単に部屋を空っぽにすることではありません。「松葉杖なしでも、自分の足で立てる」という自信を取り戻すことです。 「私は何も持っていなくても、十分に魅力的で、生きていける」。この「ある様式(Being)」の感覚が育てば、松葉杖は自然と不要になり、痛みなく手放せるようになります。
アクションプラン:
「所有」ではなく「活用」を問う 物を手に取った時、「これは高かったか(所有の価値)」ではなく、「これは今の私を輝かせているか(存在の活用)」と問いかけてください。使わずにしまってある物は、あなたを支えていません。ただの「死んだ物質」です。死んだ物を背負うのをやめ、生きた関係のある物だけを残しましょう。
「体験」は捨てても消えないと知る 「思い出の品」が捨てられないのは、記憶という無形のものを、物体に閉じ込めて保存しようとしているからです。写真を撮ってデジタル化し、現物は手放してみましょう。物は消えても、あなたが体験したという事実(Being)は永遠に誰にも奪われません。
一つ手放して、空いたスペースで「踊る」 物を捨てた後にできた「空白」を恐れないでください。その空白は、あなたが新しく呼吸し、動き回り、誰かを招くための「自由な空間」です。物が減った分、あなた自身が動けるスペース(自由)が増えたことを体で感じてください。
【用法・用量】
この考え方を取り入れると、物を捨てる恐怖が「身軽になる喜び」へと変わり、部屋だけでなく心の中の風通しも良くなります。
ただし、いきなり全てを捨てて「何もない部屋」を作るのが目的ではありません。それは「何もないこと」を誇示する、裏返しの「持つ様式(所有の否定を所有している)」になりかねません。
あなたが愛し、使い、共に生きているなら、物はいくつあっても構いません。大切なのは、物が主役ではなく、あなたが主役であることです。
お大事に。
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