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AIに「自由な意志」はある?すべてがプログラムされた世界を考えてみよう

「今日のランチ、何にしようかな…ラーメンもいいし、カレーも捨てがたいな」

私たちは毎日、こんな風にいくつもの選択をしながら生きています。このとき、私たちは「自分で自由に」決めていると感じていますよね。この「自分で選ぶ力」のことを、哲学では「自由意志」と呼びます。

では、AIに同じ質問をしたらどうでしょう?「あなたにおすすめのランチはカレーです」と答えてくれるかもしれません。しかし、その答えはAIが「カレーを食べたい!」と自由に思った結果なのでしょうか。

それとも、あなたの過去の好みや健康データ、近所のレストランの評判といった、与えられた情報をプログラム通りに処理した結果なのでしょうか。

AIをきっかけに、私たち人間が当たり前だと思っている「自由意志」の不思議を探ってみましょう。


「自由な意志」と「決定論」:昔からの大問題

この問題を考えるとき、哲学では古くから対立してきた2つの考え方があります。

  • 自由意志(じゆういし)
    • 私たちは、自分の行動を自分で選び、決めることができるという考え方。
    • 「私がラーメンを選んだのは、他の選択肢(カレー)もあったけど、最終的に私がそう決めたからだ」という感覚です。良いことをすれば褒められ、悪いことをすれば責任を問われるのも、この自由意志が前提にあります。
  • 決定論(けっていろん)
    • 世の中で起こる全ての出来事は、それより前の出来事によって、あらかじめ決まっているという考え方。
    • まるでドミノ倒しのように、最初のドミノが倒れれば、あとの結果はすべて自動的に決まっていきます。この世の始まり(ビッグバン)という最初のドミノが倒れた瞬間から、今日のあなたがラーメンを食べることも、運命づけられていたのかもしれない、と考えるのが決定論です。

この2つ、なんだか矛盾しているように感じませんか? もし全てが決まっているのなら、「自分で自由に選んだ」という感覚は、ただの思い込みなのでしょうか。これは哲学の歴史における最大級の難問の一つです。


AIは「決定論」の世界の住人

さて、AIに話を戻しましょう。現代のAIは、この「決定論」を体現した存在と考えることができます。

AIの行動は、以下の3つに基づいています。

  1. プログラム:人間が書いた命令書。
  2. アルゴリズム:計算や問題解決のための手順。
  3. データ:学習の元になる膨大な情報。

AIがどれだけ人間らしい文章を作ったり、美しい絵を描いたりしても、そのアウトプットはすべて、これらの要素による計算の結果です。そこにAI自身の「意志」が入り込む余地はありません。

つまり、AIの答えは、インプット(入力)さえ同じであれば、100回やっても100回同じになる、決定論的なシステムなのです。(※実際には計算に乱数を使うこともありますが、その「ランダムさ」もプログラムの一部であり、自由な意志とは異なります)

この意味で、現在のAIに「自由意志はない」と、ほぼ断言してしまってよいでしょう。


じゃあ、人間は?:「ラプラスの悪魔」という思考実験

「AIはプログラムで動くから自由じゃない。でも人間は違うでしょ?」 そう思いますよね。しかし、本当にそうでしょうか。ここで、決定論を突き詰めた、ある有名な思考実験を紹介します。

全てをお見通し「ラプラスの悪魔」

19世紀のフランスの数学者ラプラスは、こう考えました。

「もし、宇宙に存在するすべての原子の位置と運動量を完全に把握し、かつ、すべての物理法則を知っている、超知的な存在(悪魔)がいるとしたら?」

この悪魔にとっては、未来の出来事を予測することは、簡単な計算にすぎません。ドミノ倒しの次の駒を予測するように、1秒後、1年後、100年後の宇宙の状態さえ、完璧に言い当てることができるでしょう。

さて、ここで考えてみてください。私たちの脳も、つきつめれば原子の集まりです。脳内の電気信号も、物理法則に従って動いています。

だとしたら、「ラプラスの悪魔」にとっては、私たちの次の思考や決断さえも、すべて予測可能ということになってしまいませんか?

あなたが「ラーメンを選ぼう」と決心するその瞬間も、悪魔から見れば、単なる脳内原子の物理的な運動にすぎないのかもしれません。そう考えると、「自由意志」という感覚が、少し揺らいできませんか?


まとめ:私たちはプログラムされた存在なのか

今回は、AIを入り口に、「自由意志」という哲学の大きな謎に触れてみました。

  • 自由意志とは「自分で自由に選択できる」という感覚のこと。
  • 決定論とは「全ての出来事はあらかじめ決まっている」という考え方。
  • AIはプログラム通りに動く決定論的な存在であり、自由意志はない。
  • ラプラスの悪魔」の思考実験は、人間の脳さえも物理法則に従うなら、私たちの選択も予測可能かもしれない、という可能性を示している。

もちろん、「人間の意識はそんなに単純じゃない!」「量子力学の不確定性が自由の源だ!」といった反論もたくさんあり、この「自由意志 vs 決定論」の戦いに、まだ決着はついていません。

AIについて考えることは、鏡で自分たちの姿をのぞき込むことに似ています。

あなたが次に何かを「自分で決めた」とき、ふと立ち止まって考えてみてください。 その決断は、本当にあなたの「自由な意志」によるものなのか。それとも、あなたの知らない無数の原因によって、そう決まるべくして決まったことなのか。

答えのない問いだからこそ、考えてみるのは面白いですよね。