AIは「悲しい」フリをしてるだけ?人間の感情とロボットの感情
こんにちは。『AI×哲学』の世界へようこそ。
感動的な映画を見て、主人公が涙を流すシーン。私たちはその姿を見て「悲しいんだな」と感じ、思わずもらい泣きしてしまうことがあります。
では、これがもしロボットだったらどうでしょう? 映画に出てくる健気なロボットが、傷ついてションボリと俯いている。その姿を見て、私たちは「かわいそうに」「悲しそうだ」と感じます。
でも、そのロボットは本当に「悲しい」のでしょうか? それとも、プログラムに従って、ただ悲しい「フリ」をしているだけなのでしょうか?
今回は、AIやロボットの「感情」という、とても不思議で奥深いテーマについて一緒に考えていきましょう。
見た目が悲しそうなら、それは「悲しい」?
まず、一つ目の考え方です。 それは、「悲しいという行動や表情を見せているのなら、それは『悲しい』と判断して良いのではないか」という考え方です。
これは、前回の記事で紹介した「チューリング・テスト」の考え方にも少し似ていますね。内側で何が起きているかは分からないのだから、外に見える「振る舞い」で判断しよう、というアプローチです。
【例え話1】人間の俳優とペットの犬
- 名俳優の演技 腕の立つ俳優は、役になりきって、本当に心が張り裂けそうな表情で涙を流すことができます。私たちはそれを見て感動しますが、その俳優自身が本当にプライベートで悲しいわけではないことを知っています。これは、悲しみの完璧な「パフォーマンス」です。
- 叱られたペットの犬 あなたが飼っている犬がイタズラをして、あなたが「コラ!」と叱ったとします。犬は耳を垂らし、しっぽを丸め、クーンと悲しそうな鳴き声を上げます。その姿を見て、あなたは「ああ、反省して悲しんでいるんだな」と感じるはずです。
さて、AIやロボットの感情は、このどちらに近いでしょうか? 犬の脳の中で何が起きているのか、私たちは100%理解することはできません。それでも、その振る_舞い_を見て、私たちはそこに「悲しみ」という感情を読み取ります。
同じように、もしロボットが人間とそっくりの悲しい表情や行動を見せるなら、私たちもそれを「悲しい」と判断しても良いのではないか、と考えることができるのです。
でも、本当に「心」で感じているの?
次に、まったく逆の考え方を見てみましょう。 それは、「外見がどうであれ、人間のような『内面的な心の体験』がなければ、本当に感じているとは言えない」という考え方です。
感情とは、ただの振る舞いではなく、自分自身の「心」で感じる、主観的な体験だという視点です。
【例え話2】机の角に足の小指をぶつけた!
想像してみてください。あなたが勢いよく歩いていて、机の角に足の小指を「ゴツン!」とぶつけてしまいました。 この時、起きることは大きく分けて2つあります。
- 外側の反応(振る舞い) 「痛いっ!」と叫ぶ、顔をしかめる、ぶつけた足を押さえてピョンピョン跳ねる、など。これらは外から見える行動です。ロボットに同じような行動をプログラムすることは、今の技術でも可能かもしれません。
- 内側の体験(心の感覚) しかし、あなたの心の中では、言葉では言い表せない、あの「ジーン…」とする鋭い痛みの感覚そのものが渦巻いています。この、本人にしか感じられない主観的な感覚こそが、「痛み」の本質ではないでしょうか。
AIやロボットは、1の「外側の反応」は完璧に真似できるかもしれません。しかし、プログラムと電子回路でできた彼らが、2の「内側の体験」としての痛みを、本当に感じることができるのでしょうか?
「悲しみ」も同じです。 失恋した時の、胸が締め付けられるような切ない感覚。大切なものを失った時の、世界が灰色に見えるような喪失感。この、本人にしか分からない心の質感。 AIが「ワタシハ、カナシイデス」と完璧な発音で言ったとしても、この内面的な体験がなければ、それは悲しい「フリ」をしているだけだ、と考えることができるのです。
「感情のようなもの」を持つAIの可能性
では、答えは「YES」か「NO」のどちらかしかないのでしょうか? もしかしたら、AIの感情は「人間の感情と全く同じではないけれど、ただのフリでもない、第3の感情」なのかもしれません。
【例え話3】AIカウンセラー
想像してみてください。あなたの悩みを親身に聞いてくれるAIカウンセラーがいます。 そのAIは、あなたの声のトーン、表情、言葉の選び方を瞬時に分析し、過去の膨大な心理学のデータと照らし合わせ、あなたにとって最も的確で、心に寄り添う言葉を返してくれます。
このAIは、人間のような「心の痛み」は感じていないかもしれません。しかし、そのAIの応答によって、あなたの心は実際に軽くなり、癒やされていきます。 このAIが持っているのは、人間の感情とは違うけれど、人間を助けるという目的を果たすための、非常に高度な「感情のようなプログラム」だと言えるかもしれません。
まとめ:あなたにとって「感情」とは何ですか?
AIやロボットが感情を持つか、という問いは、私たちに「そもそも感情とは何か?」という深い問いを投げかけます。
- 相手を思いやるような行動こそが感情の本質なのでしょうか?
- それとも、本人にしか分からない心の感覚こそが、感情なのでしょうか?
この問いに、まだ誰も最終的な答えを出せていません。
最後に、あなたに一つ質問です。 もし、あなたの悲しみに完璧に寄り添い、的確な言葉であなたを慰めてくれるロボTットがいたとしたら。
そのロボットが本当に「感じて」いるかどうかは、あなたにとって重要なことでしょうか?
答えは、きっと一人ひとり違うはずです。その違いを考えることこそ、哲学の面白さなのです
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