「自分らしさ」って何?AI時代に「わたし」を見つけるための3つの哲学的ヒント
SNSを開けば、キラキラした日常が並び、AIはまるで人間のように文章を書き、絵を描き出す…。
そんな時代に、「他の誰でもない、わたしだけの“自分らしさ”って、一体何だろう?」と、ふと不安になることはありませんか。
情報や技術がものすごいスピードで進化する中で、「わたし」という存在の輪郭が、なんだかぼやけてしまうような感覚。実はこれ、多くの人が感じている悩みかもしれません。
でも、安心してください。「わたしとは何か?」という問いは、哲学の世界で何百年も前から考えられてきた、とても歴史のあるテーマです。
今回は、AI時代だからこそ考えたい「自分らしさ」を見つけるための、3つの哲学的ヒントをご紹介します。
ヒント1:「わたし」は、この「身体」である
まず、最も基本的で、しかし強力なヒントは、「わたしは、この身体を持っている」という事実です。
当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これは「自分らしさ」の確かな土台です。あなたはこの世界にたった一つしかない身体を持ち、他の誰とも違う場所と時間を生きています。
ここで、古代ギリシャからの有名な思考実験「テセウスの船」を考えてみましょう。
英雄テセウスの船を、後世まで保存することになりました。 しかし、船の木材は年月とともに腐っていきます。そこで、腐った板を一枚、また一枚と新しい板に交換していきました。 長い年月の末、ついに船の板がすべて新しいものに入れ替わってしまったとき、その船はもはや「テセウスの船」と呼べるのでしょうか?
私たちの身体も、細胞が常に入れ替わっており、数年もすれば全く別の物質になっていると言われます。それなのに、私たちは「自分は同じ自分だ」と感じていますよね。
これは、物質が入れ替わっても「身体としての連続性」が保たれているからです。AIはサーバーからサーバーへとコピーできるデータですが、あなたの身体はコピーできません。太陽の光を肌で感じる温かさ、好きな食べ物を味わう喜び、転んだときの痛み。そのすべてが、この身体に根差した、あなただけの「自分らしさ」なのです。
ヒント2:「わたし」は、つながる「記憶」である
次に、哲学者のジョン・ロックなどが考えたヒントが、「わたしとは、記憶の連なりである」というものです。
あなたが「昨日の自分と今日の自分は同じだ」となぜ確信できるのか。それは、昨日の出来事を覚えているからですよね。
小学生だった自分、昨日ランチを食べた自分、そして今この文章を読んでいる自分。それらをつなぎ合わせ、一本の線にしてくれているのが「記憶」と「意識」です。この意識の連続性こそが「わたし」の正体だ、と考えるのです。
AIも、膨大なデータを「記憶」することはできます。しかし、AIの記憶は、ただの情報の記録です。あなたが夕焼けを見て「きれいだ」と感じた思い出には、そのときの感情(クオリア)や、誰と一緒にいたかといった、あなただけの体験が紐づいています。
AIにはない、感情の彩りを持った主観的な記憶の連なり。それこそが、あなたの「自分らしさ」を形作る、大切な要素なのです。
ヒント3:「わたし」は、自分で紡ぐ「物語」である
最後のヒントは、最も現代的で、そしてパワフルな考え方です。それは、「わたしとは、自分で作り上げる物語(ナラティブ)である」というものです。
「自分らしさ」は、どこかに完成形で落ちている宝物のようなものではありません。むしろ、あなたが自分の経験や記憶を材料にして、自分自身で紡いでいく物語の主人公、それが「わたし」なのです。
- 「わたしは、挑戦を恐れない人間だ」(過去の経験をそう解釈する)
- 「わたしは、人を思いやれる人間になりたい」(未来の目標を設定する)
これらはすべて、あなたが自分の人生に意味を与えるために紡いでいる「物語」の一部です。
AI時代において、この考え方は特に重要です。SNSのアルゴリズムは、あなたに「こういう物語を生きてはどうか」と商品を勧め、情報を提示してくるかもしれません。しかし、最終的に自分の物語をどう編集し、どんな主人公として生きていくかを決めるのは、あなた自身です。
あなたは、自分の人生という物語の「作者」であり、「編集長」なのです。
まとめ:AI時代だからこそ、「わたし」の物語を紡ごう
今回は、「自分らしさ」を見つけるための3つの哲学的ヒントを探ってみました。
- 身体:あなただけの、かけがえのない物理的な存在。
- 記憶:感情と共に続く、主観的な意識の連なり。
- 物語:あなた自身が作者となって紡いでいく、人生のナラティブ。
AIがどれだけ進化しても、あなたの身体的な経験をしたり、あなたの主観的な記憶を感じたり、あなたの代わりに人生の物語の主人公になったりはできません。
「自分らしさ」とは、探して見つけるものではなく、日々の選択や経験を通じて、自分で創造していくものなのかもしれません。
AI時代は、不安な時代であると同時に、改めて「人間とは何か」「自分とは何か」を深く考える面白いチャンスでもあります。
さあ、あなただけのユニークな物語を、これからも紡いでいきましょう。
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