【中学生にも分かる】AIは本当に「考えている」の?アラン・チューリングのそっくりさんゲーム
こんにちは。『AI×哲学』の世界へようこそ。
スマートフォンのAIアシスタントやチャットAIと話しているとき、ふとこう思ったことはないでしょうか。 「このAIは、もしかして本当に『考えて』いるのだろうか?」と。
「今日の天気は?」「おすすめの映画は?」と尋ねると、驚くほど人間らしい答えが返ってきます。しかし、それはAIが本当に「思考」した結果なのでしょうか。それとも、あらかじめプログラムされた言葉を返しているだけなのでしょうか。
この「機械は考えることができるか?」という壮大な問いに、今から70年以上も前に、一人の天才数学者が非常にユニークな答え方を示しました。 彼の名はアラン・チューリング。今回は、彼が考案した興味深い思考実験「イミテーション・ゲーム」について、分かりやすく解説していきます。
天才数学者、チューリングの画期的なアイデア
アラン・チューリングは、第二次世界大戦中にドイツの難解な暗号「エニグマ」を解読し、戦争の終結に多大な貢献をしたイギリスの数学者です。現代のコンピューターの基礎を築いたことから「コンピューターの父」とも呼ばれています。
彼はこう考えました。 「『機械が考える』と言っても、『考える』とは一体何だろうか。人間の脳を開いて、思考そのものを見た人はいない。では、『考えているかどうか』をどう判断すれば良いのだろう?」
そこで彼は、直接「思考」の有無を問うのではなく、「人間と見分けがつかなければ、それは『考えている』と見なして良いのではないか」という、非常に画期的なアイデアを提案しました。 その判断のために考案されたのが、「イミテーション・ゲーム(模倣ゲーム)」です。
「そっくりさんゲーム(チューリング・テスト)」とは?
皆様も、このゲームの参加者になったつもりで想像してみてください。
ステップ1:準備
プレイヤーは3人です。
- Aさん:男性
- Bさん:女性
- Cさん:あなた(質問者)
あなた(Cさん)は、AさんとBさんの姿も声も知りません。それぞれ別室にいる二人とは、テキストチャットだけで会話します。あなたのミッションは、チャットの文章だけをヒントに、どちらが女性(Bさん)かを当てることです。
もちろん、Aさん(男性)はあなたが間違うように、女性らしい言葉遣いなどを使って巧みに騙そうとしてきます。一方でBさん(女性)は、あなたが正解できるよう、本当のことを話してくれます。あなたは、文章のクセや返答の内容から、本物の女性を見抜かなければなりません。
ステップ2:本番
ここからが、チューリングの独創的な発想です。 今度は、Aさん(男性)の代わりに、AI(コンピューター)を参加させます。
- AI:コンピューター
- Bさん:人間(性別は問わない)
- Cさん:あなた(質問者)
あなたの新しいミッションは、チャットの会話だけで、どちらが人間(Bさん)かを当てることです。 AIは、自分が人間であるとあなたに信じ込ませるため、全力で人間らしい答えを生成します。
もし、あなたが何度テストしても、偶然以上の確率でAIと人間を見分けることができなかったとしたら…?
その時、このAIはテストに「合格」したと見なされます。 この思考実験は、今日では彼の名を冠して「チューリング・テスト」と呼ばれています。
チューリング・テストが意味すること
このテストが示唆しているのは、次のような考え方です。
もし機械が、人間との対話において、相手に機械であると気づかせないほど自然で、ユーモアや感情表現まで模倣できるような「人間らしい」応答ができるのであれば、その内部構造がどうであれ、その機械は「知的である」「考えている」と見なすべきだ、というものです。
身近な例で考えてみましょう
あなた:「昨日観たアニメの最終回、感動的でしたね」 AI:「ええ、本当に。私も思わず涙ぐんでしまいました。特に主人公がライバルに言ったあのセリフは最高でしたね。ただ、少し展開が急すぎたようにも感じましたが、あなたはどう思いましたか?」
このように、単に情報を返すだけでなく、共感を示し、具体的な感想を述べ、さらには意見を問いかけてくるようなAIがあったとしたら、あなたは相手がAIであると見抜けるでしょうか。
テストへの反論:「中国語の部屋」思考実験
もちろん、このチューリング・テストには多くの反論も寄せられました。中でも有名なのが、哲学者のジョン・サールが提唱した「中国語の部屋」という思考実験です。
あなたは、ある部屋に一人で閉じ込められています。あなたは中国語を全く理解できません。 しかし、あなたの手元には「中国語でこのような質問が来たら、このように答えなさい」という指示が書かれた、非常に分厚いマニュアルブックがあります。
ドアの隙間から、中国語で書かれた紙が差し込まれます。あなたはマニュアルを調べ、指示通りに答えとなる中国語の記号を紙に書き、ドアの隙間から返します。
部屋の外にいる中国語話者から見れば、部屋の中からは完璧な中国語の返答が返ってくるため、「この部屋にいる人物は中国語を流暢に話すに違いない」と考えるでしょう。
しかし、部屋の中にいるあなたは、中国語の意味を全く理解していません。ただ、ルールブックに従って記号を操作しているだけです。
サールは、「現在のAIがやっていることは、この中国語の部屋と同じではないか?」と問いかけました。つまり、いかにも「考えている」ように見えても、言葉の意味を本当に「理解」しているわけではないのではないか、という批判です。
まとめ:答えのない問いだからこそ面白い
アラン・チューリングが「イミテーション・ゲーム」を提案してから70年以上が経ち、AIは目覚ましい進化を遂げました。
しかし、「AIは本当に考えているのか?」という根源的な問いに対する明確な答えは、まだ誰にも出せていません。
- 人間と見分けがつかない振る舞いができれば「考えている」と言えるのでしょうか?(チューリングの考え方)
- それとも、振る舞いだけでなく、人間のような「意識」や「意味の理解」がなければ、考えているとは言えないのでしょうか?(サールの考え方)
あなたはどう考えますか? もし、人間と絶対に見分けがつかないAIが現れたとしたら、あなたはそのAIを「仲間」や「友達」と呼べるでしょうか。
このように、当たり前を疑い、答えのない問いをどこまでも思考できるのが、哲学の面白さです。そしてAIの進化は、私たちにそうした哲学的な問いを、今まさに投げかけているのです。
今後も、このサイトではAIと哲学のエキサイティングな世界を探求していきます。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません